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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1093号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

被告人三名の弁護人田辺恒之及び同松浦登志雄の上告趣意第一点について。

原審においては、被告人等三名の弁護人として寺内忠一及び田辺恒之の両名、被告人畑中及び植原の弁護人として宮良寛雄が選任せられていたが、昭和二十四年三月三日の原審公判には、田辺弁護人のみが出頭し、他の両弁護人は出頭しなかったこと所論の通りである。しかし宮良弁護人に対しては、右の公判期日の召喚状が送達せられているにも拘らず、出頭しなかったのであり、しかも出頭しなかったことにつき正当な理由があったものと認めるべき証明もないのであるから、同弁護人については弁護権の制限があったとは言えない。これに反して寺内弁護人に対しては、裁判所から右期日の召喚状を送達し若しくは同弁護人から右期日に出頭すべき旨を記載した書面を受領した形跡は記録上全然窺うことができないから、原審は右公判期日において同弁護人を召喚せず、その出頭なくして審理を為し、弁論を終結した違法あるものと認めるの外ない。尤も原審公判調書によれば、各被告人は最終陳述の後に寺内弁護人の弁論を抛棄する旨述べているけれども、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第四六号同年四月六日第三小法廷判決)に示されている通り、弁護人は刑訴法上被告人に属する権利を行使する外、その独自の立場において被告人を擁護する固有の権利をも有するものであるから、弁護人を召喚せずその出頭なくして審理した手続上の瑕疵は、單なる被告人の弁論抛棄の陳述によって治癒せられるものと解することはできない。それ故に原判決には弁護権の行使を不法に制限した違法があるとする論旨は理由があり、原判決は全部破棄を免かれない。

よって田辺、松浦両弁護人の上告趣意中のその余の主張並に被告人三名の弁護人星野宗治の上告趣意に対する判断を省略し、なお右の違法は事実の確定に影響を及ぼす虞れあるものであるから、旧刑訴第四四七条第四四八条の二に従い主文の通り判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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